利用者様の安心のために:虐待防止研修から学んだ私たちの誓い
今回は、私たちが利用者様の「安心」と「安全」を守るために、最も大切にしている取り組みの一つ、「障害者虐待防止法研修」についてお話しさせてください。
「虐待防止」と聞くと、難しく感じてしまうかもしれません。でも、これは決して難しい話ではなく、利用者様一人ひとりが自分らしく、笑顔で毎日を過ごすための大切な土台をつくるための話です。
倉敷市が主催するものと、地域の仲間が集まる部会が主催するものの、2つの研修に参加しました。
このブログでは、そこで感じたこと、そして私たちがなぜこの研修を大事にしているのかを、皆さんに分かりやすい言葉で心を込めてお伝えしたいと思います。
Contents
1. なぜ「虐待防止」は、今やらなければならないことなの?
法律が変わった、大切な理由
少し前まで、福祉の事業所が虐待防止の研修をすることは、「できればやってくださいね」という「努力義務」でした。しかし、**2022年(令和4年)4月**からは、国がこれを「必ずやらなければならないこと(義務)」と決めました。
この変化は、福祉の現場にいる私たちにとって、とても大きな出来事でした。
なぜなら、これは「虐待は個人の問題ではない」という国の強いメッセージだからです。つまり、「虐待は、誰か一人の悪い人が起こすものではなく、事業所全体の仕組みや雰囲気で起こってしまうことがある」と国は考えているのです。
だからこそ、私たちは、この法律が変わったことをきっかけに、虐待を絶対に起こさないための**「3つの約束」**を守っています。
- 虐待防止の「責任者」を必ず置くこと。
- 虐待を防ぐための話し合いをする「委員会」を定期的に開くこと。
- 職員が虐待について学ぶ「研修」を必ず行うこと。
もしこの約束が守られていないと、国から「きちんとした支援ができていない」と判断され、事業所がマイナス評価を受けてしまいます。これは、利用者様が安心して通える場所であるために、私たちが必ず守るべきルールなのです。
2. 「虐待」ってどんなこと?—5つの種類を知る
「虐待」と聞くと、体を叩いたりする「身体的な虐待」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、法律で定められている虐待は、もっと広い範囲を指します。
私たちが研修で学んだ、5つの「虐待の種類」を、日々の生活に置き換えて見てみましょう。
虐待の種類 | どんな行動が当てはまる? |
---|---|
身体的な虐待 | 体を叩く、つねる、強く押さえつける。無理やり何かを食べさせること。 |
性的な虐待 | わいせつな言葉をかけたり、わいせつな映像を見せたりすること。 |
心理的な虐待 | ひどい言葉を浴びせる、無視をする、仲間に入れないこと。 |
介護・世話の放棄 | ご飯や水分を十分に与えない、お風呂に入れない、病気になっても病院に連れて行かないこと。 |
経済的な虐待 | 利用者様の同意なく、年金や賃金を使ったり、必要なお金なのに渡さなかったりすること。 |
悪気がなくても、虐待になる?
研修で特に心に響いたのは、この5つの種類に当てはまらない、「不適切なケア」の話でした。
例えば、
- 「介助がしやすいから」と、利用者様が嫌がっているのに下着のままにしておく。
- 「早く終わらせたいから」と、本人に選ばせることなく、職員が勝手に作業を決めてしまう。
これらは、職員が「利用者様のため」や「効率のため」と考えて、**無意識**にやってしまうことがあります。でも、こうした行動は、利用者様の尊厳を傷つけ、やがて大きな虐待へとつながっていく危険な「グレーゾーン」なのです。
研修では、こうした「小さな芽」を見逃さないように、職員がお互いに声をかけ合える、風通しの良い職場を作ることが何よりも大切だと学びました。
3. 研修から学んだ、2つの大切なこと
倉敷市の研修から学んだこと
倉敷市が主催する研修は、主に**法律的な考え方**と、**何かあったときの正しい対応**について学ぶことができました。
- 虐待の「兆候」に気づくこと:体に傷がなくても、急に不安そうな顔をしたり、他の人を避けるようになったりといった**心の変化**にも注意することの大切さを知りました。
- 「通報」の重要性:万が一、虐待の疑いを見つけたら、「通報はすべての人を救う」という視点を持って、ためらわずに報告する手順を学びました。
行政の研修を受けることで、私たちは客観的な視点から、自分たちの支援を見つめ直すことができました。
地域生活支援部会の研修から学んだこと
この研修では、地域の他の事業所の皆さんと一緒に、「生きた事例」を話し合いました。これは、知識を学ぶだけでなく、実際にどう行動すべきかを考える、とても貴重な時間でした。
- 「組織で防ぐ」ことの大切さ:虐待は個人的な問題ではなく、**事業所全体で取り組むべき課題**だと改めて学びました。
- 「風通しの良い職場」を作ること:どんな小さなことでも、職員同士で「これって大丈夫かな?」と気軽に相談し合える雰囲気こそが、虐待を未然に防ぐ一番の力になることを再認識しました。
4. サービス管理責任者としての7つの決意
今回の研修は、私自身に深い反省と新たな決意を与えてくれました。法律のルールを守るだけでなく、私たちがどんな心で利用者様と向き合うべきか。その答えは、次の7つの誓いになりました。
受講して感じたこととしては、やはり自分の価値観や物差しで物事を考えてはいけないということですね。こちらが良かれと思ってしていることも、対象者にとっては嫌なことかもしれないという意識を職員全員が持つことは、とても大切だと感じました。
また施設の責任者としては虐待を許さない文化作り、まず自分の支援を疑うこと、そして自分の弱さを認めることが大切だと思いました。
福祉現場ではどうしても人手不足や専門性の欠如、風通しが悪い組織風土等で虐待が起こりやすい環境が作られるので、施設の責任者としての姿勢が一番問われるな、と強く感じました。施設の雰囲気は管理者によって大きく変わると思うからです。
人間が人間を支える障害福祉の仕事の意味と意義を、まずは施設の責任者がしっかり理解しておかないといけないと思います。
まずは職員が安心して勤務できる環境を整えること。そこから、障害のある方が自らの望む生活を営むことができるよう、人格を通じて価値・倫理を基盤とした知識や技術を身につけて質の高いサービスを提供していくこと。この2つを両輪として回していくことが重要だと感じました。
この思いを胸に、私たちは以下の7つの誓いを立てました。
- **自分の価値観だけで決めつけない** 自分が「良かれ」と思ってすることが、利用者様にとっては嫌なことかもしれません。常に利用者様の気持ちに寄り添って、本当にその方のためになっているかを考え続けます。
- **まず、自分の支援を疑う** 「自分は大丈夫」と思い込まず、「これで本当にいいのかな?」と、常に自分の支援を疑い、謙虚な気持ちで向き合います。
- **自分の弱さを認める** 「完璧な支援者なんていない」ということを、私自身が認めます。そうすることで、職員も「困ったこと」や「小さな悩み」を、気軽に話せるようになります。
- **「虐待は許さない」という文化を作る** 福祉の現場は、忙しさや職員不足で、心に余裕がなくなってしまうことがあります。だからこそ、私自身が「虐待を許さない」という強い姿勢を示し、職員が安心して働ける環境を整えることが一番大切だと感じています。
- **温かい雰囲気は管理者から** 事業所の雰囲気は、管理者の姿勢で大きく変わると信じています。利用者様だけでなく、職員も大切にすることで、事業所全体が温かい場所に育っていくはずです。
- **職員の安心が、質の高い支援につながる** 職員が安心して働ける環境を整えること。これが、利用者様が本当に望む生活を送れるように、質の高いサービスを提供するための最初の、そして最も重要な一歩です。
- **人間としての「価値観」を磨き続ける** 支援は単なる「やり方」だけではありません。人の気持ちや倫理観という土台の上に、知識や技術が乗って初めて、質の高い支援になります。私たちは、これからも人として成長し続け、より良い支援を目指していきます。
5. 最後に—私たち「りんぐす」の約束
今回の研修は、私たちにとって、虐待防止が単なるルールではなく、「人間としてどうあるべきか」という大切な問いかけを投げかけてくれました。
「りんぐす」は、この学びを活かし、これからも職員みんなで話し合い、研修を続けていきます。特に、今後の研修に関しては、オンラインで職員全員が好きなタイミングで受けられる体制を整えていく予定です。これにより、一人ひとりが自分のペースで、着実に学びを深めていくことができます。
利用者様、そしてご家族の皆様が、心から安心できる居場所であるために、私たちはこれからも努力を続けてまいります。どうぞこれからもよろしくお願いいたします。